エピソード11



「どうしましょ…」

「駅に戻ったほうがいいかしら」


「それとも直接電話したほうが早いかしら」


「電車内の忘れ物って、どのタイミングで気付くんでしょうね…」

「折り返しの際に気付くのかしら…」

「でもその前に悪い変な人に持ってかれたらどうしましょ…」


「お財布とか貴重品は…」

「うん、それはこっちのバッグに入れてたから大丈夫なんだけど…」

「お弁当と…

おやつに食べようと思ってた大福が入ってたのよぉ・・・」



「『大福』…ですか」

「ナマモノって忘れ物で保管はしてくれないでしょう?きっと」


「悪い変な人にあの大福だけは食べられたくないし…」

「です…よねぇ」


「私、これ使って駅の番号調べて電話してみますよ」


「…『デニム地っぽい手提げ袋』でしたっけ?持ってらしたのって」


「そう、娘から誕生日プレゼントで貰ったものなの…」

「それは見つけないといけないですね!!」



えっと…このアイコンをクリックして…


カチッ

えっと…それで


トンッ

カタ カタ…

「お弁当は諦められるけど…

今日持ってくるはずだった大福は、す~ぐ売り切れちゃうやつなのよぉ」

「しかも個数限定の…なっかなか食べられないやつなのぉ…」

カタ カタ カタ …


トントン

カチッ


「ん?」

「どうしましょ、どうしましょ…」

トントンッ


「あ、文江さん、誰かいらしてるみたいですよ」


「私、出ましょうか?」

「大丈夫!藤森さんは引き続きお願い、私が出るから!」

「分かりました」

トントン


カチッ


「はいはーい!いま行きまーす!」



「はいはい、いま開けますね~」  

カチャッ

キィ~

「あーーら!かなたくーん!」

!?


「河本さん、慌てて降りてったから 」

「はいこれ、お届けものです」

!!

「うわぁー、ありがとう~!」

「さっき忘れたことに気づいてね」

「「どうしましょ」ってなってたとこだったのよぉ!」


「僕も最初、駅員さんに預けに行ったんですけど」

「中身を確認したら、『お弁当』が入ってたので」

違う…よね…


「あと名刺入れも入ってたので、じゃぁ僕が届けますってなって」

「…で、ここまで辿り着きました^^」


「スゥーーー……ふうぅ」

「そうだったのぉ~!」

「学校行く途中だったのに、寄り道させちゃってごめんね~」

「いえいえ、まだ間に合う時間なんで」

「それにせっかくのお弁当、食べてあげないと可哀想ですしね^^」

「届けてくれて本当にありがとう!」

「じゃ僕は学校行きますね」


         「・・・」


「行ってらっしゃーい!」

「行ってきます!」


パタンッ


「藤森さん、電話しなくて済んだわー!」

「良かったですね^^」


「ホント良かったわぁ、『大福が無事』で!」


「届けてくれたのは…」

「電車で席譲ってくれた子でね、ちょーっとお喋りしただけなのに」

「こうやってわざわざ届けてくれるなんてねぇ」


「あんな親切な子、今時珍しいわよね!」

「お茶菓子でも出せばよかったかしら~」


「その『大福』、とかですか?」

「これは『わ・た・し』の!」

「お客さん用に別のがあるのよ~ 笑」

「なるほど!」

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