5−16



「陽介氏の携帯、渡してあるよね?」


「うん」

「渡してある」



「でも思ったんだけど」


「なんですか?」


「目論見通り、また記憶を失くしたとしても、

杉下里紗んところに警察は連絡しないんじゃない?」



「『落合健治』である証拠、例えば免許証とかを拝借しちゃえば、

ただの不審者じゃなくって、『身元不明の』不審者になりますよね?」


「うん」


「身元不明の不審者の財布に、『法律事務所』に勤めてる

あの女の名刺があったら、身元確認で連絡くらいはするでしょ」


「あ!」

「だから携帯の番号に○してあったのか」



「じゃあ、会った最初から『落合健治』の存在を消すつもりだったの?」


「いや、最初はそのつもりはなかったと思いますが、

記憶を失くして『落合健治』として生活してると知ってて近づいたので」


「思い出すか思い出さないか、どっちに転んでも直接自分に連絡がくるよう、

携帯の番号に丸をしたんだと思います」



「『落合健治』という存在を書面上で消したとしても、

落合健治が仮の戸籍だったっていう事実は変わらないので」


「そこをあやふやにすると、

今度は『落合健治』が行方不明者になっちゃうじゃないですか」


「あ、そっか」



「仮の戸籍を作るにしても、家庭裁判所の許可が必要なので」


「その、『落合健治』の存在を作る手助けをした、

法律事務所の人間に彼女が成り変わる…」


「もっと言えば警察のほうには、それよりも近しい、

恋人のような関係になってるって演じるつもりなんだと思います」


「拝借した免許証を…例えば「珍しく忘れちゃった」とかなんか言って」



「社会的に信用度の高い、素性を明かした人間がやってきて、

身元が確認されたら、警察はフツーに身柄は引き渡すでしょ」

「余計な仕事はしたくないし、それで解決って事になるんだったら」



「でも健治さんは、

暢子さんと付き合ってるじゃん」


「そっちの人間には法律事務所の人間として、

「『落合健治』は、行方不明だった『岡崎陽介』でした」っていう事実を伝えて、

錯乱状態とかなんとか言って、絶対会わせないんじゃない?」


「ふぇ~、こぇ~…」


「でも、そうならないように、うちらが今動いてるんだから」



「んで俺らはどうすんの?」


「壊されて錯乱してる、陽介さんを救いにいく」


「でも俺らのこともきっと忘れてるでしょ」

「その上混乱してる陽介を、どう救うんだよ」


「喫茶店の作戦会議で話したでしょ?

私がボールになるって」


「あ!それか!」

「てっきりそれ、救い出した後の話だと勝手に思ってた」


「同時進行でやるんだな」


「ジョン化してる時の記憶ってないんでしょ?」

「陽介さんだった時も」


「うん」


「だから健治さんである今も錯乱状態になっても

ブブッブブッ…

ジョン化する可能性は高いと思うんだ」


「沙織から連絡きた!」

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